ネットゼロ社会の実現に向け、クライメートテックは今、世界中で最も注目を集める領域のひとつです。addlightが運営する「SUITz Tokyo」は、海外の有望スタートアップが日本市場に進出し、ここでの事業開発を加速するためのアクセラレーションプログラム。2024年秋に開催された「SUITz Tokyo Batch2」では、9社の海外スタートアップが参加し、半年間にわたるプログラムの成果を披露するデモデイが行われました。

本記事では、優秀賞に選ばれた4社（Satlyt・Solitaire Power・エシカルスピリッツ・Emobi）の挑戦にスポットライトを当て、彼らがどのように気候変動という地球規模の課題に向き合い、未来のスタンダードを切り拓こうとしているのかをお届けします。

日本と世界をつなぐ、SUITz Tokyoの挑戦

「SUITz Tokyo」は、東京都が主催し、addlightが運営する海外スタートアップ向けのアクセラレーションプログラムです。クライメートテック分野において、日本市場での事業展開を目指すスタートアップに対し、東京を拠点とする企業・自治体とのマッチング、法制度理解、メンタリング、実証機会の提供など、実践的なサポートを行っています。

Batch2には、海外から9社のスタートアップが参加。プログラム終了後に開催されたデモデイでは、技術革新性、社会的インパクト、日本市場との適合性などが評価され、4社が優秀賞を受賞しました。

世界が注目する4つの革新──SUITz Tokyo受賞企業の実力とは

気候変動への挑戦は、もはや一部の国や業界だけの課題ではありません。そんな中、SUITz Tokyo Batch2では、世界各国から集まったスタートアップの中から特に高い革新性と社会実装力を備えた4社が優秀賞に選出されました。ここでは、Satlyt、Solitaire Power、エシカルスピリッツ、Emobiという4社のビジョンと、日本での展開に向けた可能性を紹介します。

【1】宇宙から排出量を可視化するスタートアップ　Satlyt（米国・シリコンバレー）

Satlytは、アメリカ・カリフォルニア州シリコンバレーに拠点を置くスタートアップで、CEOはRama Aylur氏です。
同社は、衛星間をつなぐ分散型クラウド基盤を構築し、宇宙空間上でデータを処理することで、CO2排出量の高精度な可視化を実現しています。森林伐採や排出源の特定に用いられ、地球環境モニタリングの新たなスタンダードを生み出しつつあります。

宇宙×AIという未踏領域に挑みつつ、地上インフラに依存しないCO2可視化技術を確立した点に、次世代のインフラ構想としての可能性を感じました。

Satlytは、宇宙空間にある未使用の衛星演算リソースを活用し、地球上に戻さずに衛星間でリアルタイムにデータを処理する革新的なプラットフォームを構築しています。これにより、森林伐採や温室効果ガス排出の検知を高頻度かつ高解像度で行えるようになり、都市や企業ごとのCO2排出量の可視化を可能にしています。
演算コストの大幅な削減も実現しており、企業の環境対応における意思決定支援ツールとして注目を集めています。同社は2025年後半にシリーズAの資金調達を予定しています。

【2】建物を“カーボンシンク”に変える　Solitaire Power（フィンランド）

Solitaire Powerは、フィンランド・ヘルシンキを拠点とするクライメートテック企業で、CEOはPetri Luukko氏です。
建物の換気インフラにCO2回収機能を組み込むことで、既存設備を活用したカーボンネガティブな建築を実現しています。既に欧州や中東で導入実績があり、日本での展開も視野に入れています。

特に注目が集まったのは、既存の換気設備を活用し、都市構造に手を加えず、即座に脱炭素化へ寄与できる点です。スピード感と社会実装性の高さが評価されました。

Solitaire Powerは、建物の換気設備そのものを活用してCO2を回収するという独自のアプローチで注目を集めています。ビルや商業施設の換気ダクトに後付け可能な回収装置を設置し、通常の空調運転をしながら二酸化炭素を吸着。年間の換気エネルギーを最大で50％削減しつつ、建物を「カーボンシンク」へと変貌させるこの技術は、寒冷地から中東の高温地域まで安定的に運用可能です。欧州やドバイですでに複数の導入実績を持ち、今後の日本展開にも期待が寄せられています。

【3】飲んで循環を体験するジンブランド　エシカルスピリッツ（日本）

エシカルスピリッツは、東京都台東区を拠点とする日本発の蒸留酒メーカーで、代表取締役は山口歩夢氏です。同社は酒粕や果物の皮など、従来捨てられてきた食品副産物を活用し、環境負荷の低いクラフトジンを開発。国内外で高い評価を得るとともに、循環型経済を体現するブランドづくりに挑戦しています。

デモデイのピッチでは廃棄物に新たな可能性を与えるブランド戦略と、その背景にある技術力のバランスが高く評価されました。

エシカルスピリッツは、日本発のクラフトジンメーカーで、食品副産物や未活用素材を原料にアップサイクル型の蒸留酒を製造しています。酒粕や果実の皮などの副産物を原料にした製品は、環境負荷を抑えつつ高い付加価値を持ち、国際的なコンペティションでも高い評価を獲得しています。また、企業や自治体と連携した限定コラボ商品を多数展開し、ブランドと環境価値の両立を図っています。

【4】地域脱炭素を足元から推進　Emobi（日本）

Emobiは、東京を拠点とするモビリティ系スタートアップで、CEOは新井悠太氏です。観光地を中心に超小型EVのシェアリングサービスを展開し、地域活性化と脱炭素化を両立するビジネスモデルを構築。ホテルや商業施設との連携により、地域密着型のEVネットワークを形成しています。

デモデイでは地域課題と脱炭素を同時に解決するモデルとしての完成度に高い評価がされ、スモールスタートながら、展開力に強い可能性を感じました。

Emobiは、日本国内の観光地を中心に超小型EVのシェアリングインフラを展開しているスタートアップです。現在、湘南や沖縄を中心に100台以上の車両が稼働しており、地域の観光体験と脱炭素化を同時に支援しています。
直営とフランチャイズを併用する柔軟な運営モデルにより、導入先の施設と連携した地域密着型の展開を実現しました。

日本の未来にどう根づくか、実証から社会実装へ

今回のBatch2では、JERAや大手不動産企業など、すでに複数のスタートアップが日本企業との協業を進めています。
日本はカーボンニュートラルを国家戦略に掲げており、実証・社会実装のフィールドとしても魅力的です。一方で、規制や制度、商習慣の違いなど、“壁”も存在します。そこを乗り越えるための「橋渡し」が、SUITz Tokyoの大きな価値です。

いかに科学や技術が進歩しても、それだけでは社会は変わりません。社会実装を前提とした事業戦略と、それを支えるエコシステムがあってこそ、未来を動かすイノベーションは生まれます。

addlightは今後も、世界の志あるスタートアップとともに、日本の未来を共創していきます。

クライメートテック・スタートアップ最前線 SUITz Tokyo Batch2受賞企業の挑戦をレポート！

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